「暗い実相の世界に迷い込んだ童子ちゃん達は、山口県の静かな大嶺村に住むマツヨばあちゃんの愛を一心に受け、希望の扉が開いた先に光り輝く空へ羽ばたくまでのお話です」
その日は青空の下、マツヨばあちゃんはいつものように、裏山の畑で一生懸命働いていました。
この畑をマツヨ農園と呼んでいます。
その時でした。このマツヨ農園の中心にある大きな柿の木のてっぺんに座る女の子を見つけたマツヨばあちゃん。
その少女はボロボロの服にぬいぐるみを背負っていました。身体は小さく痩せ細り、何日も何も食べていなかったのでしょう。
マツヨばあちゃんのお弁当の残りが入るかごばかりみていました。
すると、柿の木からスルッと降りた少女は
「ばあちゃん、残りの弁当を食ってもいいのか?」とたずねました。
いいよと、答えると両手に握り飯を持って食べ始めました。
それを見たマツヨばあちゃんは、そんなに急がんでも握り飯は逃げないからゆっくりお食べ…。
ほれほれ、お茶を飲んでゆっくりゆっくり食べんさい!のどにつかえないようにね!
「ばあちゃん、このまんまはいい味だ!
明日もここに来てもいいのか?」
マツヨばあちゃん、うなずくと少女はスッと消えてしまいました。
驚いたマツヨばあちゃん、少女の名前も聞かずじまいでした…。
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次の日も裏山の畑で働くマツヨばあちゃん、
すると、昨日の少女が柿の木のてっぺんに現れました。
マツヨばあちゃん、あの子はもしかしたら霊魂の童子なの??と思いつつ……。
どうやら、マツヨばあちゃんには霊感があったようでした。
「ばあちゃん、今日の弁当は何だ?今日も食ってもいいのか?」
何て食い意地がある子なんだろうと感じながらも、今日は少女の分まで弁当を用意していた優しいマツヨばあちゃんでした。
お名前は?どこから来たの?とたずねるマツヨばあちゃんに、「オレは花だ、銀山温泉から2厘半がオレの家だ!」
「ばあちゃん、腹減った、早う!まんまの時間にしてくれ!」
ところで、花ちゃんは、まんま、まんまと言うけれど、ばあちゃんはまだ畑仕事があるんだからね!
少しは手伝ってくださいな…。
マツヨばあちゃんは、こんな食い意地の張った子は見たことがないと驚きの連続であった。
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次の日も、その次の日も、花ちゃんはマツヨ農園を訪れては、マツヨおばあちゃんのお弁当をおすそ分けをちょうだいしていました。
なんて食い意地の張った子なのか、あきれたマツヨおばあちゃんでした。
「そこの花ちゃんや!花ちゃんは何故、こんな遠い山口にまで来たのかね?」
「ばあちゃん!オレは腹減って、春の風に流されていたら、ばあちゃんの弁当が見えたからな…」
「へぇ~、花ちゃんは、まんま、まんまと山形から春風に乗って来たのね。」
「ばあちゃん、オレは山に捨てられたんだ!
大水でな、田も畑も流されてな、稲や野菜もみんな流された、まんまが無くなったから、口減らしに、山に捨てられたんだ」
「かわいそうにね…。」
うす暗い山で独りぼっち、何も食べられず、泣いていました。
「腹減って、山でオレは死んだ、死んで童子になった。」
「ん~、なら、花ちゃん、おばあちゃんの家で座敷わらしになってくださいな。
おばあちゃんは、おじいちゃんを早く亡くして独りぼっちだから…ね。」
おうちは広くて淋しいところに花ちゃんが来てくださり…おうちに花が咲いたような…
ばあちゃんも癒やされて楽しい生活の始まりです。
ばあちゃんの農園は裏山の高いところにありました。大水の心配もありません。
春には農園が緑のじゅうたんになります。そして、畑には花ちゃんの好きな野菜もいっぱい実ることでしょう。
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マツヨばあちゃんと座敷わらしになった花ちゃんとの生活が始まりました。
いつも誰もいないおうちの庭で、裏山の畑でマツヨばあちゃんの独りお話は、いつの間にか村中のうわさになっていました。
村の人々は、「マツヨさんは淋しさのあまりにとうとう気が狂ってしまったよ」
村の人々からは、きちがいばあちゃんと…言われるようになってしまいました。
「ばあちゃん、オレは、このおうちにいてもいいのか?
オレは、ばあちゃんが好きだ!
もうあの山には帰りたくねぇ」
「花ちゃん、ここは花ちゃんのおうちだから、いつまでも居てくださいな」
マツヨばあちゃんと花ちゃんの幸せな日々が続きました。
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ある日、いつものようにマツヨばあちゃんと花ちゃんは裏山のマツヨ農園で働いていると、あの柿の木てっぺんから、ガランと扉が開きました。
すると、その扉から出る光の先から、花ちゃん!花ちゃん!とたくさんのお友達の声が聞こえてくるのでした。
そのお友達も春風に乗って、花ちゃんを追いかけていたら、あの扉が開き、光に吸い込まれるようにマツヨ農園にたどり着いたのです。
「花ちゃん、やっと会えたね。
ずいぶん探したのよ!
このばあちゃんは…?」
「このばあちゃんは心優しくてな、腹減ったオレに、まんまを食べさせてくれるマツヨばあちゃんだ!」
「はじめまして、ミホとサナエ、ユリコにミドリ、そして
カエデにレン、最後にマチです。」
「花ちゃんのお友達の皆さん!こんにちは」
一度にこんなたくさんの童子のお友達に会えたマツヨばあちゃんはうれしくてうれしくて、マツヨばあちゃんの目に涙が光り輝いてました。
あまりの嬉しさに、「マツヨば
あちゃんは、あの扉を希望の扉と名付けたそうです。」
あの扉こそがマツヨばあちゃんと座敷童子のお友達の出会いになりました。
「今日は、暮れに花ちゃんとついた餅でしるこをお友達の皆さんに、ちそうするから、仲良く囲炉裏で遊んでくださいな!」
「マツヨばあちゃん!いただきま~す!!」
「た~んと、ゆっくり仲良く召し上がれ!」
さすがに食い意地の張った花ちゃんだけあって、食べるのは早い…
口の周りはあんこだらけの花ちゃんでした。
「ばあちゃん!お代わりはあるのか?このしるこは、なかなかいい味だ!」
この話し方を聞いたお友達みんなが、花ちゃん節に大笑い!
どうやら花ちゃんの頭の中は食いものばかり…
まんまの花ちゃんというマツヨばあちゃんに、ばあちゃん!しるこのお代わりくれ。
「ばあちゃん!ばあちゃんのしるこはいい味だ!
お礼にオレの歌を聴いてくれ」
花ちゃんは、むかし、そのむかしと、透き通るような美声で歌い始めました。
マツヨばあちゃんは、孫娘の歌を想い出したかのように、幸せな気分になれたとか…。
続く
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